Reading Page

 
イチオシ
MAILER-DAEMONさんを知っていますか?
稲垣 優

 あなたは、MAILER-DAEMONさんからメールをもらったことがありますか? 私はあります。

 MAILER-DAEMONさんは日本語が理解できないようで、英語でメールを送ってきます。だから受け取ったとき、ちょっとばかり焦ります。

「をを! 英語のメールやんけ。どこの外人さんからだあ?」

 初めてこのメールを受け取ったとき、正直、私はこう思いました。インターネットを使ったメールのやりとりを始めて、それほどたっていなかったころだと思います。

 それまでは、niftyというパソコン通信を使ってメールのやりとりをしていました。そのころは、MAILER-DAEMONさんからメールをもらったことはなかったのです。

 さて、届いたメールを見ると、本当に英語がいっぱいです。でも、ずずずっと下までスクロールすると、どこかで見たような文章が書いてあったりします。

「こ、これは! 俺が昨日、○○さんへ送ったメールじゃないか」

 そうです。MAILER-DAEMONさんは、メールを送った人へ同じメールを送り返すのです(送った人のメール文なしに送付される場合もあるような……)。

 彼(彼女?)からのメールは、多くの場合、次のようなものです(以下は、私のところへ届いたメールの一部分です。宛先名等は変えてあります)。


Date: 10 Mar xxxx 21:27:01 +0900
From: MAILER-DAEMON@XXXX.XXXX.ne.jp
To: tatoeba@xxx.xxx.co.jp
Subject: failure notice

Hi. This is the qmail-send program at xxxx.xxxx.ne.jp.
I'm afraid I wasn't able to deliver your message to the following addresses.
This is a permanent error; I've given up. Sorry it didn't work out.

 日ごろ英語を見慣れていないためか、この文章を見ても、何がなんだか分かんない……という人が多いでしょう。私もそうでした。でもね、よくよく見てみると、「error」とか「given up」とか、見慣れた言葉が見つかります。

「ああ、何かのエラーなんだな。誰かがギブアップしたってか? え?」

 私はそんな風に思いました。

 で、ずずずずっと下までスクロールすると、私が送ったはずのメール文がそこにあるわけです。そこで、はたと気づき、もう一度、上まで戻って、この英文を読み直してみたわけです。

「ふむふむ。qmail-send programってのは、もしかしたらメールを送るプログラムのことかな? てことは、メールを送ってきたMAILER-DAEMONさんは、人間じゃないってことかあ?」

 これに気づくと、今までドキドキしていた(英文メールを受けると、いつもドキドキしちゃいます)のが、あほらしくなってきました。

「なーんだ。メールが届けられなかったというお知らせじゃないか」

 そうなんです。MAILER-DAEMONさんは、コンピュータの中(それもメールサーバーというところ)にいるプログラムなのです。そして彼は、1日24時間、1年365日、休まず働いています。たいしたもんですよね。そして彼は、配達先がどうしても見つからないメールがあると、上のような文章を付けて送り主に返すのです。

 でもね、初めてこんなメールを受け取ると、それはそれはびっくりします。「なんじゃ、これは」と松田優作のように叫びたくなります(ふ、古い・笑)。

 もう何年も前のことですが、私の親戚に、インターネットアクセスを始めたばかりの子がいました。ハイティーンの彼は、いろいろな所へメールを送って楽しんでいたようですが、ある日、とうとうMAILER-DAEMONさんからのメールを受け取ってしまいました。驚いた彼は、そのメールをそっくりそのまま私のところへ転送し、

「何が書いてあるのか、教えてね」

とメールしてきたのです。

 私は、それまでの自分の経験を基に、MAILER-DAEMONさんのことを説明しました。しかし彼は納得しませんでした。

「ということは、僕の送ったメールが、アドレス違いで戻ってきたというわけなんですか? そんなハズはありません。だって何度も確認したんですから」

 少年よ、「そんなハズはありません」と言われても困るのだよ、おじさんは。君が間違っていないのなら、MAILER-DAEMONさんが間違っているのかい? MAILER-DAEMONさんは毎日、同じような作業を続けているのだよ。もちろん絶対にMAILER-DAEMONさんが正しいとは言えないかもしれない。でも可能性としては、君が間違えている方が高いと思うけどな。

 私はメール越しに、説得を続けました。そのかいあってか、彼は「もう一度、相手にメールアドレスを確かめてみます」と言いました。

 教えてもらったメールアドレスが間違っている場合は、意外に多いものです。また、ドット(.)が足りなかったり、l(エル)と1(いち)を間違えたり、~(チルダ)がなったりと、単純なミスである場合もあります。

 さて、今これをお読みのあなた。MAILER-DAEMONさんについてお分かりになりましたか?「そんなもん、とっくの昔から知ってらー」という方には失礼になりますが、まだまだ知らない方が多いのです。

 ちなみにDAEMONはなんと読むのでしょう。ローマ字読みをすれば「だえもん」ですね。これはなかなかいい響きです(笑)。でもこれは「デーモン」と読みます。またdaemonを辞書で引くと「demonに同じ」とあります。demonを引くと「悪魔、鬼、精霊」などと書かれています。なんだか恐ろしげですが、MAILER-DAEMONさんは悪魔や鬼ではありません。ではなんでdaemonというのか……。

 これは私の勝手な思いこみですが、コンピュータのメールサーバーの中にいるMAILER-DAEMONさんは、やっぱりデーモンなのだと思います。ギリシャ神話でのデーモンは、神々と人間の間に位置するものといわれるとか。となれば、コンピュータを神(偉いものという意味ではなく、人間が触れたがらないものという意味に取るといいかもしれませんね)とするなら、人間とコンピュータの間に位置するプログラム(ソフトウエア)は、まさしくデーモンですよね。こんな解釈は間違っているかもしれませんが、私はずーっとそう思ってきました(間違っているようでしたら、誰か正しい意味を教えてくださいませ)。

 さて、今回のコラムは、「イチオシ」でしたよね。MAILER-DAEMONさんをイチオシするのかって? いえいえそうではありません。実は、Yahoo!の「今日のオススメ」で楽しいサイトを知ったので、それを「イチオシ」にしたいのです。それは、ここ。

 http://daemon.m-i.jp/

 「メーラーだえもんさんへの手紙」というサイトです。

 MAILER-DAEMONさんから「メールが送れなかったよ」と、お知らせメールをもらうと、ついそれに返事を書いてしまう人が多いようです。届いたメールにちゃんとお返事を出すのは、とてもいいことなんです。でもこのサイトにある「お返事」には、ちょっと変わったものがあります。それは、お返事書く人たちが、MAILER-DAEMONさんが誰なのか知らないからだと思われるのです。

 百聞は一見に如かず。何はともあれ、一度このサイトを訪れてみてください。うまくすると、あなたの「笑いのツボ」にずっぽしハマリますよ。笑いすぎにご注意……。

copyright : Masaru Inagaki(2002.12.04)

読みもののページ

ショートストーリーを中心に、しょーもないコラム、Mac系コンピューター関連の思いつきつぶやきなど、さまざまな「読み物」を掲載しています。
20世紀に書いたものもあり、かなり古い内容も含まれますが、以前のまま掲載しています。