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バリカン坊主
ブログ掲載

(※このコラムはブログ「てなことで……」に掲載したものです)

 昨日、10日ぶりに髪を切った。こんなに短期間で切るには理由がある。それは私が坊主頭(丸刈り)だからだ。

 もうずいぶん昔の話になるが、髪が薄くなりだしたころは、それほど危機感がなかった。女房も気にしている風もないし「ま、いいか」と思っていたのだが、日を追うにつれてだんだん薄くなってきた。で、トドのつまりが「薄い」という表現が的確でないところまで来てしまった。

 覚悟を決めた私は、理容店で「とことん短くしてください」と言い、1センチ程度の髪長(なんて言葉があるのかな?)にしてもらった。それからずっとその髪型だった。

 ある日、知り合いのデザイナーと偶然、ラーメン屋で会った。ふと見ると、彼の頭は全くの「坊主」だった。瞬間、私の中に何かが走った。「これだ!」と小さな声が出たかもしれない。

 翌日、理容店へ行き、「大将、坊主にしておくんな」と言った(本当は「すみませんが、今回は丸刈りにしてもらえますう?」と言った)。店のマスターは「本当にいいんですか?」と念を押すが、こっちは長いこと短髪だったし禿頭だ。気にすることはない。「ずばっとやっておくんなさい」と言った(本当は「ええ、お願いします」と言った)。

 それから1カ月近くたったころ、そろそろ髪が伸びてきて鬱陶しくなってきた(毛の少ない部分が目立つようになってきた)ので、理容店へ行こうかと思ったが、ここは発想を変えて電器屋へ向かった。電動バリカンを買いに行ったのだ。

 で、買ったわけだ。バリカン。

 ご存じない方のために説明すると、電動バリカンには、いわゆるアタッチメントが付いている場合が多い。残す毛の長さを調節するためのもので、3ミリとか5ミリとか8ミリとかの種類がある。購入直後、私は迷うことなく「3ミリ」を選択した。本当は2ミリでもよかったのだが、そのアタッチメントが同梱されていなかった(安いバリカンを買ったからかもしれないが)ので、3ミリにした。

 刈りごこちはなかなか良かった。これで理容店へ行く手間が省ける。お金も助かる。でも、これまでずっと通っていた理容店に申し訳ない。そこんところが妙にひっかかったが、ま、いいか~と開き直った。

 さて前置きが長くなったが、問題は10日前のことである。いつものようにバリカンで髪を刈り、その足で風呂へ入るつもりだったのだが、何を思ったか先に風呂へ入ってしまったのだ。体にお湯を掛けてから思った。

「しまった。先に髪を切るつもりだったのに」

 もう遅い。今さら外へ出て、体をふく気にはならない。風呂を終えてからでは髪を切るわけにはいかない。バリカンのあとは、細かな髪が頭にいっぱい残るからだ。

 で、しょうがないので女房にバリカンを取ってもらうことにした。風呂の中で刈ろうというわけだ。

 半分くらい刈り進んだころ、私は妙なことに気づいた。なんか、いつもと感触が違うのだ。いつもより滑りが悪いというか、バリカンがごつごつと頭にあたる感触がある。変だ。

 で、バリカンの本体を見た。初めは気づかなかった。「なんとなく見た目もいつもと違うな」くらいだったが、数秒後、ようやく気が付いた。アタッチメントが付いていないのだ。

 女房はアタッチメントの存在に気づかなかったらしい。またそれを受け取った私も確認せずに使ってしまった。

 女房を呼んで見てもらうと。「すっごく短い。きゃははは」と笑う。

 おいおい笑い事じゃないだろうとふくれるが、刈り出してしまったのだからしょうがない。その後は女房にも手伝ってもらいながらきれいに刈り終えた。

 風呂から上がって鏡で見ると「すっごく短い」。これは笑うしかないなあと苦笑した。

 女房に定規で測ってもらうと、毛の長さは1ミリ。これは凄い。まるでお寺の坊さんだ。ここまで来たら、剃っても変わらないんじゃないかと思った。

 てことで、10日前にそんな顛末があったので、昨日もアタッチメントを使わずに刈った。つるつるの手前になった。

 女房は、もう慣れたのか笑わない。でも自宅にくっついている事務所で私が仕事をしていると、後ろから見て「お寺のお坊さんが座ってるみたい」と言う。ま、いいか。しょうがないわな。「似たようなもんだ」と返事をするのだ。

copyright : Masaru Inagaki(20070512)

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