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ミニストーリー
マイタウン安城 (21)
吉田君が笑った
稲垣 優

 お隣の吉田さんの息子さんは、今日も庭で独り遊びだ。この前の日曜日には声をかけたものの、家の中へ逃げ込んでしまった。今日はそんな失敗はしない。

 三日ほど前、息子がこんなことを言った。「吉田君(子供の方だ)を学校で見たよ。隣の三組で。一人だったよ。人と話すのが苦手みたいだね。でも僕、発見したんだ」息子はにっこり笑った。「吉田君、工作が得意らしいよ」

 息子によれば、吉田君は学校で、木製の飛行機を作っていたらしい。この話を聞いて、私はニンマリとした。実は私も、子供のころは工作少年で、よく船を作ったものだ。バルサという非常に軽い木で、潜水艦まで作った。

 昨日の土曜日、私は両親が住む生家へ行き、物置からある物を取ってきた。両親は物持ちがよく、私の子供のころの物まで捨てずにとってある。

 そして今日。日曜日だ。私と息子は、土曜日に取ってきた物を持って、吉田君に近づいた。庭で独り遊びをしていた吉田君は、案の定、私たちの顔を見ると逃げだそうとした。そこで私は、色のはげかかったバルサの潜水艦を出した。「どうだ、すごいだろう」そう言うと、吉田君の目の動きが止まった。私の力作を凝視している。手に取る。そして言った。「おじさん、これじゃあ沈まないよ」

 確かにそうだ。軽いバルサの潜水艦は、一度も水中へ入ったことがない。私は大声で笑った。それを見て吉田君がにっこりした。息子も声を上げた。どうやら私たちは、吉田君と友達になれたらしい。

copyright : Masaru Inagaki (『風車』49号掲載 1992.6.18執筆)

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