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イチオシ
最上の恐怖は後を引く……ビデオ「リング」を見るべし!
稲垣 優

 怖いという感情は、脳のどのあたりに「生息」しているんだろう。脳外科の先生なら「そんなもん、この辺ですよ」と、模型や写真で教えてくれそうだけど、今回は医学的な話じゃないんで……。

 以前「最近、洋画が面白くない」と、どこかのコーナーで書いた。で、邦画が頑張ってるよねとも書いたけど、それを裏付けるようなデキゴト(笑)があった。

 1、2カ月まえのことだ。いつも行くレンタルビデオ屋「フカツ」の新作コーナーに、待ちに待ったビデオが入荷された。

 ビデオの存在を知ったのは、それより数カ月前のことだ。『ミステリマガジン』という雑誌の裏面(業界では表4といいます・笑)広告だった。紙面には「あなたはこの恐怖に耐えられるか」とかいったコピーがあり、Photoshopかなんかでレタッチしまくったような女性の写真とともに「リング・らせん」という言葉が踊っていた。

 「リング」という作品は、どうやらテレビ放送されたらしい。今回のビデオは、それを劇場版(Vシネマかもしれない)として作り直したもので、真田広之が出ていた。結構いい味をだしていたが、中身を見ると、そんなキャストの顔ぶれはどうでもよくなってしまう。問題は内容だ。

 簡単に言えば「ビデオが人を殺す」といった内容。どう考えてもありそうもない。しかしストーリーは、ありそうもないことが現実に起こる――を前提にしている。

 ある高校生が死亡する。原因不明だ。一緒にいた友達は、気がふれてしまったらしい。そして「ビデオのせいで死んだ」と噂になる。見るだけで、1週間後に死ぬというビデオがあるという。

 テレビキャスターの主人公(女性)が謎を追う。そして、死んだ高校生が泊まったコテージにたどり着く。管理員室で彼女は、例のビデオを見つけてしまうのだ。

 キャスターは見た。それは不思議なビデオだった。特に怖いものではないが、不思議な映像だ。

 見終わったとき、電話が鳴る。電話口では、今、見たばかりのビデオの音声が流れ出す……。

 さあ~、このへんから怖くなるのだ。なんか身の毛がよだつ感じがしてくる。

 その後、元亭主でもある超能力者の協力を得て、彼女は自分が死なない方法を探す。彼女同様、彼女の息子もビデオを見てしまったからだ。

 試行錯誤の末、ようやく方法らしきものを見つける。そしてハッピーエンドとなるはずだった。しかし、お約束の「どんでん返し」が待っていた。ここからは書かないけど、この「どんでん返し」が怖い。とにかく理由もなく怖い。その部分の映像を断片的に見たなら、きっと「なんか陳腐な映像だなあ」と思うだろうが、ストーリーを追って見てきた者には、どうしようもなく怖い……。

 私はカミさんと二人で、夜中に見た。ホラーとか、スプラッターっとか、悪霊ものとかは結構見てるので、たかをくくっていた。スティーブン・キング原作の映画でも、「ヘルレイザー」や「キャンディーマン」の原作で有名な、あの人(名前が出てこない・笑)のものでも、ドキドキしたり、びっくりしたりはするものの、見終わった後は「ああ、面白かった」「なかなか見せてくれたよね」くらいの感想だ。しかし「リング」は違う。

 例のシーンでは、カミさんは(珍しく)私の後ろに身を隠した。私は自分が身を引いて行くのがわかった。「えー! こんなのありかよ!」って感じだったのだ。

 繰り返すが、シーンごとを見れば、それほど怖い作品ではない。人知を越えた「こと」がバックボーンにはなっているものの、映像的に血が飛び散るとか、何かに追われるとか、突然おそわれるとか、そういう類のシーンはない。でも怖いのだ。それは、あたかも、脳の「恐怖野?」に直接突き刺さってくるような感覚だ。理屈を言えば「超能力者だから何でもできるが前提。なら、こういうこともあるかもしれない」と思え、そこが恐怖の出発点になっているのかもしれない。しかしそんな批評をする気にもなれない。ただ、純粋に怖いだけなのだ。

 まだ見てない人、ぜひ見てもらいたい。今ならレンタルビデオ屋で、簡単に借りられる。ビデオが出たころは、いつ行っても「在庫」がなかったが。

 恐怖を理屈で考えること自体、無意味なのかもしれない。「なんで怖いんだろう」と思うより「怖いものは怖い」と素直に納得してしまったほうが、精神衛生上いいかもしれない。また、ある研究によれば、恐怖は人が生きていくために必要な「素材」であるという。反動的な発想からすれば、それも分からない訳ではないが、それもまた、理屈で考えることもない。研究者に任せておけばいい。

 ということで、ぜひとも「リング」を見てください。ちなみに続編の「らせん」は、前作を見た場合、期待が大きいため、かなり落胆します。はっきり言ってつまらんです。

 で、1999年1月(ごろ?)に「リング2」が劇場公開されるそうです。私は今から期待しております。また夫婦で、身を引きながら、純粋な恐怖に落ち込めたら……なんて思っているのですが。

 

(注)やっぱり一人では見ない方がいいかも。見終わってから私は、しばらくテレビの前で、うたた寝できなくなりましたし……。

copyright : Masaru Inagaki(1998.9.29)

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